貧乏な人たちへ、この4つさえあれば豊かになれるよ

貧しいから不幸だと思っている人は多い。

こういった文言から入る哲学的なことを言いたがる人は、幸せか不幸せかは心の持ちようだよなどという結論を言いがちである。

たしかに、心もちよう、ようは世界の見方ひとつで価値観が180度変わるのは正論である。現に私は他の記事で仏教観をもとにした世界観の見方を紹介している。

しかし今回はそういった難しいものではく、徒然草を引用して貧しさと豊かさとは何かを問いかけてみたいと思う。

 

はじめに徒然草というものに軽く触れておきたい。徒然草は鎌倉期に成立したとされる随筆である。兼好法師という人物が執筆した作品であるが、人間の本質を見事に突いており、自分の生活、思想、振舞を考えさせられるものである。時間をかけてでも読む価値のある作品の一つである。

 

 

 

無益なことをして時をすごす人を、愚かな人とも、間違ったことをする人ともいっていい。国のため、君のために、否応なしてにしなければならないことは多い。それをしたあとの余暇など、どれほどもない。よく考えてみるがよい。人間の身として、やむにやまれずあくせくするのは、第一に食うもの、第二に着るもの、第三に住むところである。人間にとって大事なものはこの衣食住の三つにすぎない。飢えることなく、寒くもなく、風雨にも侵されないで、心静かに日々をすごすことを人の楽しみというものである。ただし、人は誰でもみな病気になる。病気にかかってしまうと、その苦悩は耐えがたい。だから、医療を忘れてはならない。衣食住に薬を加えた四つのものが手に入らない状態を貧しいという。この四つに不足のない状態を富んでいるという。この四つ以外のものを求めてあくせくするのを贅沢というのである。この四つのものを求めて倹約するならば、誰も不足を感じることなどないはずだ。(第一二三段)

 

 

徒然草の一二三段からの引用である。この部分は、現代人の価値観とはかけ離れたことをいっている。

衣食住、そして薬(医療)に困らない生活は豊かだといっているのだから、現代の価値観で生きているわれわれには賛同を得られない文章のように感じる。なぜならば、街中でみかける企業のスローガンやCM、ましてや芸能人の私生活のようなテレビを見ているため、豊かな生活というもののハードルがかなり高くなっているからだ。

逆に、衣食住と医療のみが得られる生活は、憲法25条が掲げる「健康で文化的な最低限度の生活」だと考えてしまう人が多いはずだ。事実、最低限度の生活がなされていないと判断されれば、生活保護として食費・被服費・高熱費の生活に必要な費用が支給される。この三つは兼好が掲げた衣食住と同じだ。

兼好の「豊かな生活」が現代の「最低限度の生活」と見なされてしまっているのが、私は貧しくて不幸だと感じてしまう原因のように思う。しかし、衣食住と医療がしっかり保証できる生活をしていれば、それは豊かな生活を送っているといって良い。金持ちの話は話半分で聞いていればいいのだ、彼らは金の使い道が人より少し多いだけだ。

 

 

 

兼好のこの文章で好きなところがある。よくある「あなたは実は不幸じゃないよ話」は、そんなに一生懸命働かなくていいんだよ、や、人生の楽しさは働くことだけじゃないよ、もっとゆっくり生きてみようよ的なスタンスのものが多い。

しかし兼好は「人間の身として、やむにやまれずあくせくするのは、第一に食うもの、第二に着るもの、第三に住むところである。」として、あくせく働くことを前提として話している。これはかなり評価できる点だ。

なぜなら、働くことだけが全てじゃないと言い、自分探し、自分らしさという名目で仕事に就かずよくわからない事をして時間を無駄にしている人が最近増えているように感じるからだ。それは働くのは~といった論を展開する最近の風潮が原因のように思う。

あくせく働いて衣食住を得る。これはかなり仏教的な考え方だが、日本人に合う思想である。何かを変えるにしても、人生を見直すにしても、あくせく働くことが基本である。

 

 

 

「この四つ以外のものを求めてあくせくするのを贅沢というのである。」

この一文も考え方を大きく変える一言であろう。人はみな、給料が入ったら「~を買おう」や「~へ行こう」などを考えながら働いている。それらはみな、兼好からみれば贅沢に当たる。昨月の自分をこの論理で見直すと、けっこうな贅沢をしていたのではないだろうか。

「健康で文化的な最低限度の生活」が保証されている私たちは、みなだいぶ贅沢な生活ができているのである。つまり、豊かな暮らしである。

もう一度言うが、お金持ちの話は本気で聞いてはいけない。彼らはお金の使い道が人より少し多いだけだ。贅沢から感じられる幸福度というものは比例しない。効用はだんだんと逓減していくことが証明されている。幸福感でいれば大差ないのである。

よく取り上げられる話だが、世界に貧困で困っている人たちはほんとうにいる。それも、今でも数多くいる。紛争に巻き込まれている人たちもいる。聞きなれた話だが、そういった人たちと自分の暮らしを考えてみて欲しい。自分がいかに豊かな暮らしをしているか。日本人であれば、大型地震に遭った時に心の底から前の生活に戻りたがるだろうことは目に見えている。

 

私たちの生活は豊かである。

これだけは言えることだ。

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この記事を書いた人

文系で日本史専攻→システムエンジニア
情報処理安全確保支援士・AWSSAP
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